【アスベストとの関係】

  近年、アスベスト暴露に伴う胸部悪性腫瘍である「悪性胸膜中皮腫」が国民的関心を集めています。「アスベスト」は、天然に産する蛇紋岩系および角せん石系の繊維状鉱物のことで、「石綿(せきめん、いしわた)」とも呼ばれています。耐熱性、耐磨耗性、耐腐食性などに優れるため、建材を中心に巾広く使用されてきました。わが国では60−70年代の最盛期には300万トンを超える輸入量だったものが漸減し、2000年には30万トンが使用されていましたが、平成16年10月1日より全てのアスベストの使用が禁止されました。しかしながら、今後、断熱材として使用されていた建築物が解体されていくことから、職業的な暴露がなくなっても、一般住民がアスベストに暴露される機会が2015−2025年ごろをピークとして2060年まで続くと予想されています。このアスベストという細かな繊維物質を吸入することが原因で、20−30年後に生じる病気が悪性胸膜中皮腫です。現在年間約400人の患者さんがこの病気で亡くなられていますが、このような事情から今後70年後まで増え続けると考えられています。
 

【悪性胸膜中皮腫とは?】

  悪性胸膜中皮腫は、左右の胸腔内を裏打ちする胸膜(中皮細胞)から発生する腫瘍で、3つのタイプ(上皮型、混合型、肉腫型)があります。胸腔内は肺、心臓・大血管、横隔膜、胸壁など重要な臓器に接する場所(空間)で、胸膜中皮腫は早期に周囲に浸潤し、命を脅かします(図1)。

 
 

【診断は?


  胸部の違和感や痛み、呼吸困難などの症状をきたすことがありますが、中皮腫に特有の症状はありません。レントゲンやCT検査では肺を包み込むようないびつな腫瘤(しこり)や胸水の貯留(図2,3)として認められます。胸水により肺が圧迫されて呼吸困難になることもあります。
 
 

【治療は?

  これまで悪性胸膜中皮腫に対する有効な薬や手術法はないとされてきました。未だ有効な治療がないことが、この社会的な問題を一層深刻なものにしています。しかし、最近の欧米における研究成果では以下のようなことがわかってきました。

 
  1. 比較的早期例では手術・放射線・化学療法(制癌剤)を組み合わせた集学的治療で長期生存が期待できる。
  2. 90年代以降の新規抗癌剤や分子標的治療薬との組み合わせによる化学療法で延命効果がある(但し日本では認可されていない)。
 まだまだ標準的な治療法が確立されておらず、各専門病院で試験的な治療が実践されているのが現状ですが、九州大学第二外科呼吸器外科グループでは、治癒の可能性のある患者さんには積極的に手術を含めた集学的治療をおこなっています。手術は胸膜・肺・心膜・横隔膜をすべて切除することで、目に見える病変をすべて摘出するようにし(図4)、さらに手術中に目に見えない細胞を死滅させる目的で蒸留水と制癌剤を混ぜた胸腔内だけの化学療法を行い(図5)、根治を目指しています。大きな手術で合併症も多くや関連死の報告もありますが、幸いなことに私たちのグループでは、この5年間の手術はすべて成功しております。