朝日新聞掲載

平成18年3月18日

-生活と心構え-無我夢中の時最も充実

九州大学大学院 消化器・総合外科(第二外科)
前原 喜彦

 「医を診る」の担当を終えるにあたり、第二外科における外科医の生活と心構えを記したい。

 私は、毎朝5時に起きる。今の季節はだいぶ夜明けが早くなったが、朝はつらい。大学に向かう準備をし、家内からおにぎり2個を受け取り、6時半に大学へ着く。6時半から7時まで、様々な報告を聞く。7時からスタッフミーティングで、各担当が伝達事項を伝える。7時15分、研究棟から病棟への第二外科スタッフ大移動が始まる。

 まず、集中治療部で重症患者を回診。7時半、病棟カンファレンスルームで当直報告を聞く。7時40分、その日の手術症例について再度提示がある。7時50分、手術予定患者のもとへ行き、「おはようございます。頑張って下さいね」と声をかける。手術を受ける患者と手術を執刀する者、色々な思いが通いあう大切な時間である。

 そして、病棟回復室の回診を行う。水曜日の総回診は、80人の患者を50分で終える。ここまでの過程は基本的に全員で行動する。全員の目で観察し、すべての情報を共有し、病態の変化に即座に対応できる体制をつくるためだ。そして、手術場へ向かう者、外来へ向かう者、処置や検査を行う者それぞれが課せられた責務を果たしてゆく。

 各人が研究棟の自分の机にたどり着くのは夜8時ごろである。それから学会、研究論文作成などが始まり、家に帰るのは夜中のことも多い。たまに早く家に帰ると、「お母さん、家の中に変なおじちゃんがいる」と言われた者もいる。笑えない。

 太陽が昇る前に手術場に入り、太陽が沈み、夜のとばりが降りてから手術場を出ることもある。「ああ、もう夜か!」。生体肝移植の手術では、延々と翌朝までかかることもあり、目に飛び込む朝日がまぶしい。

 9時〜5時勤務もいいなと思う医学生は第二外科に近付いてこない。常々言っていることであるが、「医師になろうと思った時の気持ちを思い出してほしい。高い志があったはずだ。病気に休みはなく、われわれはいつ何時であろうと患者に対応できる体と心を持たねばならない」。それでもうれしいかな、毎年瞳を輝かせ、意欲に満ちたはつらつとした若者が第二外科の門をたたいてくれる。教授冥利(みょうり)に尽きる。第二外科総出で教育、指導したいと思う。

 何がそこまで君たちを駆り立てるのかと問われることがある。「医学の道を極めよ、医療への使命感を持ち続けよ」と、教室の先輩から教えられたし、私たちも次代を担う教室員にその言葉を伝えたいと思う。それが組織の伝統と文化の継承である。日々忙しく働き、無我夢中の時が、人として最も充実している時だと信じている。「人命は至重なり。人生は勤むるに在り」


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