朝日新聞掲載

平成18年1月14日

-チーム医療の実践-見えないものにも役割

九州大学大学院 消化器・総合外科(第二外科)
前原 喜彦

 患者が求める質の高い医療を遂行するのは医師だけのように思われがちだが、そうではない。患者が病院に入院し、退院するまでにかかわる職種を考えてみよう。

 医師とともに受付事務、看護師、看護助手、検査技師、放射線技師、薬剤師、理学療法士、作業療法士、栄養士など、多くの人々がかかわっている。それぞれが医療行為を行う上で、一つひとつの歯車として働き、正確に連動して病院として機能している。

 病気は突然発症することもある。深夜、容体が急変することもある。病気に休みはないし、春も夏も秋も冬もない。病院と医療関係者は迅速な対応が必要だ。

 例えば、病棟医師、検査技師、放射線技師、薬剤師は当直体制で、救急医は日勤、深夜の交代勤務で働いており、外科医の場合は深夜でも呼び出され、次の日は通常通り勤務する。看護師は日勤(午前8時〜午後4時45分)、準夜勤(午後4時〜午前0時45分)、深夜勤(午前0時〜午前8時45分)の体制で1分のすきもなく看護にあたる。

 我々の体は昼間活動して夜間睡眠を取ることで恒常性が維持されているが、それを越えた働きが求められるのである。

 ここで、第二外科の看護師の仕事を考えてみたい。患者の体温や脈、血圧、呼吸の定期的なチェックとモニターの管理、点滴の維持、術後の傷の処置、人工呼吸器や人工透析装置の管理、排尿、排便の処置など、ほとんど休む間はない。

 おしっこまみれ、うんちまみれのこともある。患者の訴えに笑顔を絶やさず、謙虚な姿勢とともに、感情に流されることのない適格な判断能力が必要だ。

 日勤→日勤→深夜勤→深夜勤→準夜勤など、生活リズムが大きく乱れることもある。それでも徹底した自己管理によって、いつでも対応できる健全な体と心を保っている。言うのは簡単だが、スーパーマン(レディー)状態だ。自分で選んだ道でなければ到底続けることは難しい職業ではないかと思う。私自身、横から見ていて本当に頭が下がる。

 医療事故に関する様々な記事が新聞の紙面を占めているが、そのことをもって医療界全体が評価されてしまう現実は、何とも残念だ。診療報酬が大きく引き下げられる中、国民の生命を守り、健康を支えるもの、それは医療に携わっている人々の努力と献身と使命感に他ならない。

 見えないもの、声なき声が生命の安全にどれだけ重要な役割を担っているかを知っていただきたいと思う。


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