朝日新聞掲載

平成18年1月7日

-がん早期発見と治療-サインを早く察知して

九州大学大学院 消化器・総合外科(第二外科)
前原 喜彦

 国内の死因の第1位はがんであり、毎年53万人以上の新たながん患者が見つかっている。胃がんが10・4万人、大腸がんが9・5万人、肺がんが6・3万人、肝がんが3・8万人、乳がんが3・6万人、食道がんが1・5万人・・・・・・。私にとっても人ごとではない。

 日頃、九大に紹介されて外来に来られた患者には「がんが見つかってショックだったでしょう。しかし、早く見つかって良かったですよ。しっかり治療しましょう」と言っている。その治療成績は、私が医師になった28年前と比べて飛躍的に向上した。大きな理由の一つにがんの早期発見、早期治療が挙げられる。定期検診や職場検診の普及も大きく寄与しているし、治療法が開発されてきた結果でもある。胃がんでは患者の70%近くが早期がんで当科を受診されている。

 さらに、検診を受けることと同じくらい、自分の体は自分で管理することが大切だ。日々の生活の中で自分の体が発するメッセージやがんのサインをいち早く察知し、見落とさないこと。以下、当科で専門としているがんのサインについて記してみたい。

 各種がんに共通するサインは、(1)一日中だるさが続く(2)体重が減ってきた(3)貧血ぎみで疲れやすい、などである。

 種別でみると、食道がんのサインは(1)最近、やせてきた(2)食事がつかえる(3)声がかれてきた(4)前胸部に痛みがある。

 胃がんは(1)あっさりしたものを好む(2)胸やけがある(3)上腹部に痛みがある(4)食事ですぐおなかいっぱいになる。

 大腸がんは(1)便秘がち(2)便が細くなった(3)排便痛がある(4)便が黒い。  肝がんは(1)しゃっくりが出る(2)おなかが張っている(3)白目が濁っている(4)お酒の量が減った。

 肺がんは(1)からせきをする(2)たんに血がまじる(3)たんがからむ(4)胸の痛みがある。  乳がんは(1)乳房にしこりがある(2)乳頭にかゆみがある。  しかし、どれ一つとしてがんの決め手ではないことも特徴だ。サインを認めた時はためらうことなく専門の医師にかかることをお薦めしたい。

 「人間五十年 下天のうちを比ぶれば 夢まぼろしの如くなり」。幸若舞「敦盛」のこの一節を好んだ織田信長は49歳で本能寺の変に自刃した。信長の時代には、がんにかかる前に、別の原因で亡くなっていく人も多かったと思われる。

 現在、日本の平均寿命は80歳を超えている。私も52歳となり、がん年齢の仲間入りをしたが、これから平均寿命までがんを意識しながら生きることになる。つまり、今の時代は50歳を超えれば、がんは誰もがかかりうる病気であるという認識が重要だ。
 生への願いは時代を越えて変わらないものであるならば、現時点では早期発見を心がけ、がんが見つかったとしても、恐れることなく早期に治療を受けていただきたいと思う。

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