朝日新聞掲載

平成17年12月17日

-チーム医療の実践-幅広い専門医らが連携

九州大学大学院 消化器・総合外科(第二外科)
前原 喜彦

 外科診療に求められるのは、信頼される確実な医療の実践である。正確な診断と適切な治療は自己完結型のチーム医療で実現できる。

 外科手術はいかに名人といえども、一人では成し得ない。手術は術者、第一助手、第二助手、第三助手、麻酔医、介助看護師らの共同作業で、さらに、外科医だけをみても、一つの専門領域だけではなく、どのような事態にも対応できる幅広い専門のスタッフをそろえて臨むことが大切である。

 外科チーム医療の最たる例が食道がんの手術である。当科は食道がんの外科治療を専門の一つとしており、65年以来974例を経験している。食道といえば、のどにある臓器と思われがちだが、実際は大部分が胸の中にあり、がんも胸部食道にできることが多い。周囲は気管、肺、大動脈、心臓などが取り囲み、食道がんが進行すると重要な臓器を巻き込んでいく。さらに、食道がんはリンパ節に転移しやすい。

 ごく早期の食道がんだと内視鏡による治療も可能だが、進行した食道がんには手術が最も有効だ。手術は、胸を開けて食道とリンパ節を切除した後、おなかを開け、細くした胃管あるいは大腸を首の方にもちあげて残った食道とつなぐ。

 食道がんが大血管や気管、肺を巻き込んでいる場合は、術前に放射線と抗がん剤でがんを小さくして手術できるようにする。当然、抗がん剤に対する知識と経験、さらに放射線科医との連携が必要である。しかし、どうしても大血管や気管、肺を処理しなければならないこともある。その時は消化器外科チームとともに血管外科チーム、呼吸器外科チームが連携して手術を行う。

 また、大腸を食道の代わりに使う時に血行障害が起こると致命的になるため、顕微鏡下に血管をつなぎ合わせるチームが数ミリの血管をつなぐ。手術時間は10時間以上にも及ぶこともあり、外科医だけでも延べ10人以上必要とすることもある。手術終了時は精根尽き果てる。

 術後の管理も大変だ。出血や縫合不全、また、術後肺炎や心臓、肝臓、腎臓の管理など、あらゆる急激な病態変化に対処できるよう、主治医をはじめとした若い医局員は病院に泊まり込んで管理をしている。

 身体的にも精神的にも極度の緊張状態の中、我々を支えるもの、それは外科医の使命感とともに、患者や家族の笑顔と「ありがとう」の言葉ではないかと思う。

 医療に携わる医師に求められる三要素は(1)医学の基本知識とともに専門領域の知識の習得(2)技術の修練と積み重ね(3)病める人を温かく包み込むような人間性の修養――であると言われているが、日々、おごらず謙虚な姿勢でお互い助け合いながら、心の通いあう外科診療を目指している。


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