朝日新聞掲載

平成17年12月10日

-医師の国際貢献-スーダンでの奮闘応援

九州大学大学院 消化器・総合外科(第二外科)
前原 喜彦

 九州大学第二外科教室の教授を拝命して3年になる。これまで事あるごとに、教室の使命は(1)倫理観の高い外科医の育成(2)高度先端医療の開発と研究(3)地域医療への貢献――であると言ってきたし、それに向かって努力してきた。しかし、最近あることをきっかけに、もう一点加えなければならないと思うようになった。

 日本の近代医学は明治以来、欧米に学び、欧米の学問を取り入れ、世界に冠たる医療先進国となった。一方、世界を見渡せば、十分な医療を受けられない人は7億人に上るとも言われている。私が日々活動している範囲では、地域医療への貢献が身の丈にあっていると思っていたが、次の時代には、われわれが世界の医療に対してお返しをする番なのである。

 教室には、アフリカの医療へその身をささげようとしている型破りの男がいる。川原尚行君は92年に九大医学部を卒業した後、九大第二外科へ入局し、外科医となると思いきや、外務省の医務官となって03年からスーダンの日本大使館に勤務していた。

 スーダンで、長引く内戦による疲弊した社会、および政府の途上国援助(ODA)が停止した後の悲惨な医療状況を目の当たりにし、医師としての使命感に火がついた。彼は外務省を辞して収入を断ち、妻子4人を日本に残して単身スーダンで医療活動をする道を選んだのである。何と無謀かと思った。自分の命さえ保証できないところで、人の命を助けることなどできるはずはない。しかし、彼の信念は固く、旅立っていった。

 第二外科教室として支援、協力は約束したものの、一体何ができるのだろうかと、私は思い悩んだ。彼が本拠地としている現地の病院を第二外科の関連施設とするわけにはいかないし・・・・・・。これまでに彼の親友である教室のスタッフや、彼の行動に共鳴した医学部の学生が、命の危険を承知ではるばるスーダンへと彼を訪ねていった。元気に帰ってこられるのだろうかとの不安をよそに、帰国した彼らの瞳は輝いていた。

 今年11月、教室の開講記念会に彼を講師として招いた。彼の話にだれもが驚き、息をのみ、胸が熱くなった。地球上の60億の人を前にして、1人の力はあまりにも無力である。しかし、その一途で純粋な思いは、万人の心を動かすものであることを確信した。

 首相経験者、外相経験者をはじめ、多くの方々が支援に動いていると聞く。われわれは彼から、地球規模の医療貢献もあるし、信念さえあれば実現できることを教えられた。アフリカの大地で日夜奮闘している彼に、第二外科教室を代表して、また、一人の人間として心からエールを贈りたいと思う。

 川原君が結成したNGO「ロシナンテス」のホームページアドレスは以下の通り。
http://www.rocinantes.org


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