朝日新聞掲載

平成17年11月19日

-21世紀の外科手術-ロボット技術が支える

九州大学大学院 消化器・総合外科(第二外科)
前原 喜彦

 外科手術に際しては、獅子のように強い心とタカのように鋭い目、女性のようにしなやかな手の動きが求められる。一方で過ちは人の常だ。

 手術を取り巻く環境を整備し、機器を開発して質の高い医療へとつなげていくため、近年進歩が著しいコンピューター技術を医学、医療の世界に取り込む動きが盛んになっている。「心」とまでは行かないが、人間の目や手を超えるロボットの開発が積極的に行われている。

 米国で開発された手術支援ロボット「da Vinci(ダビンチ)」と「Zeus(ゼウス)」は、00年から02年にかけて九州大学病院に導入された。ロボット手術と言ってもロボットが手術をするわけではない。熟練した外科医が、よく見え、よく動くロボットの目と手を使って手術をする。3次元再現される目で見ながら操作すると、小さな手が患者の体の中に入って熟練した外科医の手と同じ動きをする。これにより、安全かつミリ単位での正確な手術操作が可能となった。

 これまでに食道や胃、大腸といった消化管、胸部の腫瘍(しゅよう)など87症例に応用し、良好な治療成績を上げている。さらに、手術支援ロボットの開発は遠隔地を結んでの手術も可能にした。海外では、医師が米国のニューヨークにいて患者がフランスのストラスブールと、大西洋を隔てて1万4千キロ離れた距離で、電話回線を使ってのロボット手術が成功した。

 九州大学病院でも韓国のソウルと結んで、遠隔医療の試みを続けている。患者と医師が遠く離れていても、質の高い医療が受けられる時代がまさに来ようとしている。

 島国であり、山国でもある日本において、人口分布の違いから生じる地域格差をなくし、提供する医療の公平性を維持するためには、欠かせない研究領域ではないかと思う。

 九大病院は「正確で患者に優しい医療を提供できる(患者に負担が小さい)低侵襲治療のための研究拠点作り」を到達目標として掲げている。様々な先端分野の研究者との協力と、たゆみない努力、そして機器の創出により、次世代のよりよい医療の実現へ向けた懸け橋になりたいと思っている。


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