朝日新聞掲載

平成17年11月12日

-血管を造る-動脈硬化に画期的療法

九州大学大学院 消化器・総合外科(第二外科)
前原 喜彦

 がんとともに日本人の三大死因を占めている虚血性心臓病や脳血管障害は、動脈硬化が原因となっている病気である。糖尿病、高血圧、高脂血症などの生活習慣病や喫煙は動脈硬化の危険因子であり、近年、動脈硬化に関連した病気が増加している。下肢も動脈硬化が起こりやすい部位で、動脈が詰まり、血行障害を起こす。

 下肢の慢性動脈閉塞(へいそく)症状では、一定の距離を歩くとすねの筋肉が痛くなる症状が特徴的である。重症化すれば、安静時の激烈な痛みや広範なかいよう・えそをきたし、下肢の切断に至る場合もあり、生活の質が大きく損なわれる。

 当科は血管疾患の診療も専門に行っており、下肢閉塞性動脈硬化症も数多く経験している。この病気に対しては、軽症から中等症では薬物治療を行うが、かいよう・えそを伴う重症の血行障害に対しては手術が第一の選択肢である。

 ところが、下肢の血行障害が重症になるほど、虚血性心臓病や脳血管障害などの動脈硬化に関連した病気を伴うことが多く、血管の病変も広範囲に及ぶことが多い。そこで、カテーテルにより金属の枠(ステント)を挿入する血管内治療など様々な治療法を駆使し、各患者に最も適した治療と全身管理を行うよう努めている。

 これに対し、近年の医学の進歩は、患部において血管を新しく造る治療法である血管新生療法を現実にした。乾いた大地に水路を引き、恵の水で満たすようなものである。日本では、主に骨髄や血液から血管を造る幹細胞を取り出し、これを患部に注射で移植する方法を用いた臨床応用が始まっている。

 当科では、塩基性線維芽細胞増殖因子という物質が血管新生を促す効果に優れ、安全性も高いことに着目した。この物質を造る遺伝子を用いた血管新生療法の研究・開発を続け、臨床試験の実現にこぎ着けた。遺伝子を運ぶベクター(担体)には国産のセンダイウイルスを用いるという画期的な治療法である。

 我々が開発した治療法は、九大の遺伝子治療臨床研究審査専門委員会および倫理委員会で承認され、厚生労働省の認可を待って、世界初の国産ベクターによる遺伝子治療がまさに開始されようとしている。この治療法が下肢閉塞性動脈硬化症で悩む患者に、有効かつ安全性の高い治療法として確立されることを願っている。


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