朝日新聞掲載

平成17年11月5日

-たばこはやめよう-がんとの関連性は深刻

九州大学大学院 消化器・総合外科(第二外科)
前原 喜彦

 02年の日本の成人男性の喫煙率は53%で、欧米諸国の平均の35%と比べると著しく高い。女性は13%と欧米の22%と比べると低いものの、減少する兆しはない。たばこの煙に含まれる有害物質が人体に様々な変化を起こし、慢性閉塞(へいそく)性肺疾患、動脈硬化による心臓病や脳血管障害、悪性腫瘍(しゅよう)(がん)など、命にかかわる種々の疾病を誘発する。世界保健機関は、現人口のうち約5億人は喫煙による健康被害で死亡すると予測している。

 急増しているがんとの関連は深刻だ。今、わが国の2人に1人ががんでなくなる時代が来ようとしている。がんは遺伝子の異常によって生じる病気であるが、たばこの煙に含まれる200種類もの発がん物質は確実に遺伝子の異常を引き起こすことになる。現在、わが国のがん死因第1位の肺がん(5万5千人/年)は、10年後には倍増すると考えられている。

 「自分の体のことだから他人には迷惑をかけない」と言う喫煙愛好家が多いが、実は喫煙者が吐いた煙や副流煙にも発がん物質が高濃度に含まれるため、周囲の人も受動喫煙により同様の健康被害を被る。

 例えば夫が喫煙者の場合、非喫煙者である妻が肺がんになる危険度は約2倍高くなり、妊婦の場合は胎児の成長を阻害し、流産の危険が確実に増す。

 健康ブームの今日、多種多様な健康補助食品がはんらんしているが、その効果は確認されてないにもかかわらず、既に4千億円以上の市場だそうである。しかし、喫煙者とその周囲の人々とっての確実な健康増進法が「禁煙・分煙」であることは間違いない。禁煙を実行すれば、20年後の肺がんリスクは非喫煙者と同等になることもわかっている。

 経済効果の面からは、たばこ産業界の作り出す利益とたばこ税は合計2兆8千億円にもなるが、たばこによる健康被害は確実に医療費に跳ね返り、患者の経済活動の損失も含め、国民の不利益は何と5兆6千億円と試算される。現在、医療費抑制が叫ばれているが、たばこは野放しで、命は削られているように思えてならない。

 米国、カナダ、フランスをはじめ、主要国では国をあげての「広告規制、分煙」が厳しく法制化されているが、日本では対応が甘い。今年10月、日本癌(がん)治療学会は禁煙宣言を採択した。がん治療にかかわる医師が自らの姿勢を社会へ示すためだ。

 たばこ愛好家の方々! たばこ一本で寿命が5分30秒短くなる。今日からぜひ禁煙を!


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