朝日新聞掲載

平成17年10月29日

-患者とドナー-「心のケア」大切な使命

九州大学大学院 消化器・総合外科(第二外科)
前原 喜彦

 九州大第二外科では96年以来、難治性肝疾患の外科治療として生体肝移植を行っている。国内一例目は89年に島根大(当時は島根医大)の永末直文教授(同助教授)が行い、以来、全国で3千例を超えている。

 当科における生体肝移植は本年10月25日で200例となり、国内では京大、東大に次ぐ症例数で、特に肝細胞がん症例は両大学と肩を並べている。

 難治性肝疾患とは重度の肝硬変、肝細胞がん、劇症肝炎などであるが、その原因の多くはC型肝炎によるものである。当科での生体肝移植全症例の3年生存率は82%で、本来、難治性で余命は非常に厳しい状況であることを考えると、評価に値する成績であると考えている。生体肝移植の今後の課題は、C型肝炎の再発と肝細胞がんの再発に対する治療と予防法の確立である。

 生体肝移植が他の医療と大きく異なるのは、患者(レシピエント)とともに肝臓を提供する健康な人(ドナー)の体にもメスが入ることだ。レシピエントとドナーの関係は親子、夫婦、兄弟など様々だが、移植医療を通して無償の愛、勇気、家族のきずなや、感謝の気持ちを認識することができる。

 一方で心の悩み、かっとう、気持ちのずれ、術後の不安な状態など、移植医療は精神面の支援態勢の整備が重要だ。「病気を治す」ということとともに、「心のケア」も我々の大切な使命ではないかと思う。

 当科では患者の出会いの場として生体肝移植患者・家族の会を開いている。今年も160人の参加があったが、お互いの元気な姿に接して喜び、語り合い、笑顔にあふれる実に有意義なひと時である。我々も外科医となったことの喜びを心から実感できる会である。

 人はいろいろな出会いを通して生きることの意味を知り、苦しみや悲しみを共有して、それを乗り越える力を得るものと思う。患者と家族、医療側との関係を通して、お互いがかけがえのない何かを手にしていると信じている。

 生体肝移植は、レシピエントが人から生かされている自分、そしてドナーは人を救うことの出来る自分を認識する場ではないかと思っている。


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