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手術以外にも治療法はいくつもあります。化学療法、免疫療法、放射線治療など。しかし、現在では最も良い治療はやはり手術です。このページでは、主に化学療法について説明します。
化学療法とは、一般的には経口薬、注射薬など薬による治療のことで、癌の領域では抗癌剤による治療の事を意味します。
現在、胃癌に対する最も有効かつ確実な治療法は手術です。しかし、それには限界があり、再発胃癌や進行胃癌は依然として治療成績は不良です。実際、胃癌による死亡者は人口10万人に対して約40.3人と言われており、日本での癌死因の大きい割合を占めています。このような現状から手術不能な進行胃癌や再発胃癌に対して、治療成績を向上するためには化学療法を中心とした集学的な治療が不可欠です。
いままでは重篤な副作用(悪心・嘔吐、骨髄抑制など)のため積極的な化学療法が施行出来なかった状態の患者さんでも、最近の副作用に対する薬剤の開発や化学療法の進歩により、負担を軽減し以前と同じ程度の治療効果を期待できる事も可能となってきました。
補助化学療法として、手術を行う症例に対しても癌の性格によって適応は異なりますが、術前や術後に補助的に化学治療を行う方法もあります。当院では、化学療法感受性試験を行っています。これは、手術時に摘出した各症例の胃癌組織の一部を使用してどの抗癌剤が最もよく効くのかを調べる試験です。同じ胃癌の中でもその性格は大いに異なっており、各症例そのものの抗癌剤感受性を調べることで、より効果の高い治療が可能となります。現在、基礎的・臨床的なデータを集積中です。
化学療法の実際
以上のように胃癌は進行してくると再発や転移を高頻度におこしてきます。このように胃とは別の臓器や部位に再発を来した場合、癌細胞が再発した場所のみに留まっているとは考えにくく、胃癌の場合は全身に拡がっている可能性が高いと思われます。
そこで、化学療法が必要となります。化学療法は全身への治療法です。再発や進行胃癌にとって有効な治療法の一つとなってきます。
これまでの胃癌に対する抗癌剤を用いた化学療法は、単剤での奏功率は低く、多剤併用療法などにより奏功率を高める工夫がなされてきましたが、一時的に癌が小さくなることがあっても、生存期間はなかなか延びませんでした。しかし近年、CPT-11, TS-1, LV/5-FU, docetaxel(TXT), paclitaxel(TXL)などの抗癌剤が次々と承認され、また併用療法や、一つの化学療法が効かなくなった場合に二次、三次の化学療法を続けて行う方法など、治療の選択肢の幅が拡がり、生存期間の延長が望めるようになってきました。
TS-1は、抗腫瘍効果の増強と消化管毒性の軽減を可能にした経口5-FU系抗癌剤です。TS-1は胃癌に対して、抗腫瘍効果、延命効果ともに期待できる有効な薬剤と考えられ、進行再発胃癌に対する第一選択薬剤として国内で広く用いられています。単剤のみならず、併用療法に関しても様々な臨床試験が行われています。TS-1と他の抗癌剤の組み合わせは、作用機序や作用部位が違うものを併用することにより、抗腫瘍効果を増加させると考えられます。
CPT-11は1995年に胃癌に対する適応を認められた薬剤で、中国産喜樹に含まれるCamptothecan(CPT)の半合成誘導体であり、胃癌・大腸癌・膵癌などに抗腫瘍効果が認められます。
TXLは西洋イチイの樹皮から抽出された物質で、他薬剤との交差耐性がなく、初回化学療法に用いても、他の化学療法を行った後の二次化学療法に用いても同等の抗腫瘍効果を発揮します。
TXTはTXLの類縁化合物で、フランスにおいて開発された薬剤で、2000年に胃癌に対して認可されました。最近では副作用軽減の目的で週1回の投与や2週毎の投与が行われています。
当科では治療効果のある様々な最新の薬剤を工夫して用いて、副作用が少なく、最大の治療効果を上げるように努力しています。入院や外来通院での治療など、無理の無い、患者様に合った最適の治療を心がけています。
また、当科では、複数の薬剤を組み合わせた胃癌の最新の化学療法の開発を行なっています。さらに、このような化学療法を開発する全国的な研究グループにも属しています。したがって、当科で治療して頂ける患者さまは、最先端の治療を受けられるとともに臨床試験への協力を時にお願いする場合もあります。
胃癌の再発の危険度は?
胃癌の再発率を癌の胃壁への深達度別に示しています。胃癌は最初は胃の最も内側つまり胃内腔側にある粘膜層に出現すると考えられています。進行するにつれて周囲に広がっていき、また、胃壁深くに潜っていきます。そこで、胃壁への癌の潜り具合が進行程度を示す一つの方法として用いられており、深達度という表現をしています。
再発率のグラフではこの深達度が深くなればなるほど再発率も多くなっていくのがよくわかります。

胃癌の再発形式は?
胃癌が再発してくる場合、どのような形式があるのでしょうか。いろんな臓器に癌は出現してきますが、その臓器によって性格は異なってきます。それに伴い、再発形式も異なります。胃癌においては、下図に示すように血行性転移や腹膜播種によるものがほとんどです。
血行性転移とは、血液中に癌細胞が進入し血流にのっていろいろな場所に運ばれ、そこで癌として再発してしまう転移です。肝臓や肺、骨髄などに転移します。
腹膜播種とは、胃癌が進行し胃の外側の壁を破った状態で腹腔内に癌細胞がバラバラと広がってしまい、腹腔内に多数、広範囲に癌を形成してしまう再発の形式です。
深達度は、上図のものと同じですので、参照してください。
深達度が深くなるに連れて腹膜播種での再発率が多くなっています 。

抗癌剤感受性を規定している因子の検索と治療への応用
がんは患者さん毎に、その性質や生物学的特性が大きく異なっています。癌の治療のいろいろな場面で抗癌剤が用られますが、あらかじめその治療効果を予測できる因子を特定することは非常に大切なことです。このことは、抗癌剤療法により治療効果が期待出来る患者さんには治療を積極的に進め、抗癌剤による治療効果よりも副作用の方が強く出現すると考えられる患者さんには他の治療を行う、もしくは身体に負担になる治療は行わず症状緩和のみを行うといった、患者さんそれぞれに適したきめ細やかな医療に結びつきます。
当科では、個々の癌が抗癌剤に対して感受性を持つかどうかを調べるため、患者さんの同意を得た後、手術で切除した病変より腫瘍組織の一部を採取し、抗癌剤感受性試験(Succinic
dehydrogenese inhibition test, SDI法)を行っています。この方法は、採取した腫瘍組織を処理し、抗癌剤投与群と非投与群に分け培養した後、酵素反応による発光度をもとに生細胞数を測定し、各種の抗癌剤に対する感受性の判定を行うものです。
また、腫瘍組織から抽出したDNA・RNAに対し分子生物学的手法を用いて、種々の因子と抗癌剤感受性との関連につき解析しています。多くの抗癌剤はDNA上に傷をつけますが、これらの傷を効率よく除去・修復する分子機構が破綻することにより、抗癌剤感受性が変化することが予想されます。基礎的研究より、このような傷を修復する分子機構の中でミスマッチ修復機構とよばれる機構が、胃癌の抗癌剤治療において主力的役割を果たすフッ化ピリミジン(5-FU)感受性に影響を与えることを見出しています。当科では、以前よりミスマッチ修復機構の異常を同定する検査(マイクロサテライト不安定性解析)を行っており、このような修復機構異常の有無による5-FU投与の効果のちがいについて検討を行っています。マイクロサテライト不安定性を認める症例、すなわちミスマッチ修復機構が異常な症例では、5-FUに対しての感受性が低下していると考えられますので、これらの関係を明らかにするとともに、その分子機構についての解析を進めています。
以上のような研究は、現在の段階では臨床応用にまでは至っておりませんが、今後、基礎的、臨床的な検討を重ねることで、将来的にはこれらの結果を取り入れたきめ細やかな治療が可能となってくると考えております。
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