乳がんの治療を受けられる方へ

  1. 乳がんとは
     乳がんにかかる人の数は増加の一途をたどり、年間約3万人の方が乳がんにかかり、約1万人の方が乳がんで亡くなっています。現在日本人の30人に一人は乳がんにかかるといわれています。
     大人の女性の乳房は、乳腺が乳頭を中心に放射状に15〜20個並んでいます。乳がんはこの乳腺から発生するがんです。

    乳がんのリスク
     母親や姉妹に乳がんになった人がいる場合は乳がんのリスクが少し高くなります。乳がんの既往のある人、カロリーの高い食事、脂肪の多い食事をよくとる肥満ぎみの女性や、初潮年齢の若い人、閉経年齢の遅い人、子供の数が少ない人や子供のいない人、最初の出産年齢が遅い人もリスクが高いといわれています。

    乳がんの経過
     乳がんは早い時期に見つかれば手術や手術と放射線治療の併用により完全に治すことができます。もし、乳がんをそのまま放っておくとだんだん大きくなり、わきの下のリンパ節に転移してはれてきたり、しこりの上の皮膚や胸の筋肉にまで拡がっていきます。さらに、「がん細胞」が血液やリンパ液の流れに乗って、骨、肺、肝臓、脳など遠くの臓器に転移してしまいます。

  2. 乳がんの診断
    1. 乳がんの症状
      乳房のしこり: 乳がんの初発症状(発見のきっかけ)は、80〜90%が乳房のしこりです。乳がんは5mm〜1cmぐらいの大きさになると、注意深く触ると自分でわかるしこりになります。しかし、しこりのすべてが乳がんであるというわけではありません。乳房のしこりに気づいたら専門医にみてもらうことが大切です。
      乳房の疼痛 : 初期から痛みが出ることはあまり多くありません。
      乳頭分泌: 乳首から液体とくに血液などが出ることがあります。
      乳房のえくぼなど皮膚の変化
      わきの下のしこり、腕のむくみ
       

    2. 乳がんの検査
      1) 視触診:まず乳房を観察し、左右差、くぼみや隆起、発赤や皮膚の変化がないかを見ます。次に、乳房にしこりがないか注意深く触診し、さらに乳頭からの分泌や出血、乳頭のびらん、わきの下のしこりなどをチェックします。

      2) マンモグラフィ:乳腺専用のX線撮影装置を用い、乳房を圧迫して薄く平らにして撮影するレントゲン検査です。しこりの他に、しこりを触れないごく早期の乳がん(非浸潤癌を含む)が石灰化で発見できることもあります。しかし、マンモグラフィにはうつらないがんもありますので注意が必要です。

      3) 超音波:皮膚にゼリーを塗ってプローブをあてて内部を観察する検査です。


      4) 細胞診:しこりに細い針を刺して注射器で細胞を吸引して、細胞が悪性か良性かを顕微鏡で調べます。細胞だけではがんかどうか微妙な場合や、細胞がうまくとれない場合は、組織診が必要になります。


      5) 生検(組織診):しこりや石灰化の部分を細胞診で使うものより少し太い針で採ったり(針生検)、メスで切り取ったり(外科的生検)して、顕微鏡で組織を観察し、最終的な診断をします。


      6) その他の検査:遠隔転移があるかどうかの診断のためには、胸、骨などのレントゲン撮影、CT、超音波検査、骨シンチグラフィなどが行われます。 また、乳房の中での病気の状態をよりよく観察するためにMRIなどの行なわれます。

    3. 乳がんの進行度
      早期乳がん  0期 非浸潤がん。乳がんが発生した腺管または小葉の中にとどまっているもので、極めて早期の乳がん。
      I期 しこりの大きさが2cm以下で、わきの下のリンパ節には転移していない
      II期  しこりの大きさが2cm以下で、わきの下のリンパ節への転移が疑われる状態、またはわきの下のリンパ節への転移の有無にかかわらず、がんの大きさが2〜5cmである状態

      局所進行乳がん 
      III期  
      IIIA期 しこりの大きさが5cm以下で、わきの下のリンパ節に転移があり、しかもリンパ節がお互いがっちりと固まっていたり、周辺の組織に固定している状態。あるいは、わきの下のリンパ節への転移の有無にかかわらず、しこりの大きさが5cmよりも大きい
      IIIB期 しこりが肋骨や胸筋にがっちりと固定しているか、皮膚にしこりが顔を出したり皮膚が崩れたり皮膚がむくんでいるような状態
      IIIC期  しこりの状態にかかわらず、鎖骨の上または下のリンパ節に転移がある状態

      転移性乳がん IV期 骨、肺、肝臓、脳など遠隔臓器に転移している場合

  3. 乳癌の初期治療
     乳癌の治療には、外科療法(手術)、放射線療法、薬物療法(抗癌剤やホルモン剤による治療など)があります。乳癌の治療は、癌の特性に基づいて、一人ひとりの患者さんに最も効果的な方法を組み合わせて行ないます。

    1. 外科療法(手術)
      1) 乳房の切除
       乳房にできたがんを切除するために行います。がんを取り残さないために、がん組織とその周りの正常組織を同時に切除します。切除される正常組織の範囲は乳がんの病期により異なります。一般的には、早い時期に見つかった乳がんほど正常組織の切除範囲は少なくて済みます。 乳がんの手術には大きく乳房を全部切除する乳房切除術と、乳房の一部分を切除し、可能な部分は残す乳房温存手術(乳房部分切除術)があります。近年、早期乳がんの発見が増加し、乳房温存手術の割合は年々大きくなっています。

      2) 腋(わき)の下のリンパ節の切除
       乳がんの切除と同時に、わきの下のリンパ節も切除されます。これは乳がんの拡がりを検査し、術後の補助療法の必要性を決めたり、再発の可能性を予測するために行うものです。
      乳房切除術
      (おっぱいを全部とる手術)
      1.胸筋温存乳房切除術
       乳房とわきの下のリンパ節を切除します。場合によっては、胸の筋肉の一部分を切除することもあります。この術式が乳房切除の中で最も一般的な乳がんの手術方法です。

      2.胸筋合併乳房切除術(ハルステッド法)
       乳房と胸の筋肉、わきの下のリンパ節を切除します。かつてはこの手術方法が標準的手術方法として実施されてきましたが、現在ではがんが胸の筋肉に著明に達している場合だけ行われます。

      3.単純乳房切除術
       がんのできた側の乳房を全部切除します。
      乳房温存手術
      (おっぱいを残す手術)

      原則として手術後、残っている乳房に放射線照射を行います。
      1.乳房円状部分切除術
       腫瘍縁から一定の距離(通常1.5cmから2cm程度)をおいて肉眼上正常と思われる乳腺組織のところを切っていく方法です。同時にわきの下のリンパ節も切除します。

      ▲正常乳腺組織を部分的にまるく切除し、
      必要に応じて腋窩リンパ節を郭清


      2. 乳房扇状部分切除術
       乳頭を中心として乳腺を扇状上に部分切除する方法です。同時にわきの下のリンパ節も切除します。

      ▲正常乳腺組織を乳頭を中心にして扇型に切除し、
      必要に応じて腋窩リンパ節を郭清


      3.腫瘍核出術乳房のしこりだけを切除する手術です。

      3) センチネルリンパ節生検
      はじめに
       乳がんの手術では、腋の下のリンパ節をとることはとても大切なことと考えられてきました。今は乳房の切除の仕方に関係なく、ごく一部の例外を除いて腋のリンパ節を切除する(腋窩リンパ節郭清)方法が一般的です。"がん"が腋のリンパ節(腋窩リンパ節)まで転移をしている方は当然それを放置して残しておくことは良いことではありません。しかし、"がん"の転移のない方にまで本当に腋窩リンパ節郭清を行うことが必要かどうかは議論の分かれるところです。腋窩リンパ節郭清をしたあとには、手術をしたほうの腕のむくみや上腕内側の感覚の低下(しびれ)、手術後の腋のリンパ液貯留、腋窩の傷の痛みなどがおこる可能性があります。どれも生命にかかわる合併症ではありませんが、術後の長い人生を考えたときには、厄介なことかもしれません。そこで、近年、センチネルリンパ節(見張りリンパ節)生検による腋窩リンパ節郭清省略の動きがでてきました。

      センチネルリンパ節生検とは
       乳房内にできた"がん"細胞が最初に流れ着くと考えられる乳房周囲のリンパ節を「センチネルリンパ節(見張りリンパ節)」(図)と呼び、このリンパ節に"がん"がいなければ、その先のリンパ節には"がん"はいないと判断をして通常の腋窩リンパ節の切除(腋窩リンパ節郭清術)はしないという方法が「センチネルリンパ節生検による腋窩リンパ節郭清省略」の考え方です。

      センチネルリンパ節を見つける方法
       センチネルリンパ節を見つける方法には、「ラジオ・アイソトープ(RI)法」と「色素法」、これらの併用法があります。手術の前に「ラジオ・アイソトープ(RI)」と「色素」を乳房に注射をしてこれを目印に見つけます。通常ラジオ・アイソトープは手術前日(あるいは手術当日の朝)に、色素は手術室で麻酔のかかった後に注射をします。

      実際の手術の進め方
      1. 術中の迅速細胞診で、センチネルリンパ節に"がん"がいなかった場合
        → 予定通り、通常の腋窩リンパ節郭清術は省略する  
      2. 術中の迅速細胞診でセンチネルリンパ節に"がん"がいた場合
        → 通常の腋窩リンパ節郭清術を行う
      3. 術中センチネルリンパ節がみつからない場合
        → 通常の腋窩リンパ節郭清術を行う あるいは
        → 通常より少なめにリンパ節を切除する(サンプリング)あるいは
        → リンパ節はとらない
       この方法(センチネルリンパ節(見張りリンパ節)生検による腋窩リンパ節郭清術の省略)は、通常の腋窩リンパ節郭清に伴う合併症(むくみ、痛み、しびれなど)を回避する有効な方法であることは事実です。

      センチネルリンパ節(見張りリンパ節)生検の適応
       術前診断で腋窩リンパ節転移がないと予想される方で、かつ、比較的腫瘍が小さい方(原則として2cm以下)、術前の化学療法が行われていない方にこの方法が適応と考えられます。この方法を希望される方は、ご遠慮なく担当医にお尋ねください。

      4) 乳房再建
       がんを切除する手術で失われた乳房を自分の筋肉または人工物を使用し形成する手術です。乳がんの手術と同時に行なうこともあれば、乳がんに対する初期治療終了後ある程度期間がたってから行なうこともあります。乳頭や乳輪を形成することもできます。再建術を希望される方は担当医にご相談下さい。
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    3. 術後の治療
      1) 再発予防のための治療
       乳癌は比較的早期の段階で全身的な転移、すなわち目に見えないほどの小さい細胞が全身に運ばれた状態、「微小転移」が形成されており、どんなに手術範囲を拡大してもこれらを抑制することはできません。従って、外科療法、放射線療法などの局所療法のみでは微小転移の制御は不十分であることがわかってきました。この微小転移が増殖し、数カ月から数年たって画像検査等で目に見える状態になったとき、再発(転移)と診断されます。再発を予防するためには早い時期に微小転移を根絶する治療をしておく必要があります。乳癌が再発しやすい臓器としては、しこりのあった近くのリンパ節や皮膚の他、骨、肺、肝臓、脳などが知られています。

      2)再発の危険性
       患者さん一人ひとりについて、再発するかどうかを100%確実に予測することはできませんが、今までのところ、1.わきの下のリンパ節(腋窩リンパ節)に転移のある人や転移の個数の多い人、2.乳がん細胞にホルモン受容体(エストロゲン受容体やプロゲステロン受容体)のない人、3.しこりの大きい人、が再発の危険性が高いことがわかっています。これらの条件をもった人については、再発予防のための治療を受けていただくのが一般的です。

      3) 再発予防のための治療法について
       乳癌の再発を予防するための治療法としては、全身すみずみまで薬が行きわたる抗癌剤やホルモン剤が、身体のどこかに隠れている細胞を退治するには最も有効と考えられています。
      術後の薬物治療は病期、年齢、閉経状況、ホルモン受容体の有無、健康状態により異なります。個々の状況に合わせた最善の治療「標準的治療」を行ないます。

      4) 乳房温存術後の残存乳房内の再発を予防する治療
      放射線療法:放射線にはがん細胞を死滅させる効果があります。乳房温存手術の場合には、残存乳房内再発を予防するため、原則として放射線療法を行ないます。
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    5. 術前化学療法について
       乳癌患者の予後を規定する微小転移を早いうちに抑えることが予後の改善につながるかもしれないという仮定のもとに、全身療法を外科治療などの局所治療に先行される術前化学療法が検討されてきました。ある程度進行した乳癌に対し術前化学療法を行なうことによって、原発巣、リンパ節転移巣の縮小が得られ、縮小手術、乳房温存手術の可能性が高まることが多くの臨床試験により報告されています。一般に3cm以上の乳がんでは乳房温存手術は難しいことが多く、このような方では術前化学療法を行なう意義は大きいと考えられます。

      術前化学療法の利点と欠点
      利点:
      • 腫瘍径の大きな乳癌に対しても乳房温存手術の可能性を広げます。
         本来なら乳房切除術(おっぱいを全部取る手術)であった患者さんが術前化学療法を行う事によりしこりが縮小し乳房温存手術(おっぱいを残す手術)が可能となることが期待されます。
      • 薬剤感受性試験としての役割を果たします。
         抗癌剤の効果が、しこりの大きさの変化を見ることで具体的にわかります。効果のない場合には中止するか他の薬剤に変更します。手術をした後には、顕微鏡検査によりがん細胞に対する抗癌剤の効果がわかり、それが予後の目安になるだろうといわれています
      • 早い段階から全身の治療を行なうことになります。
      欠点:
      • 効果がない場合、時間的にロスとなります。
         80-90%の高い奏効率が報告され、ほとんどの症例には効果がありますが、効果のない患者さんの場合、最初から手術が可能であれば手術をするほうが時間的ロスが少ないことがあります。ただし、逆に施行した化学療法は効果がないことがわかり術後化学療法の指針となります。化学療法を手術前に行なっても、手術後に行なっても再発率や生存率は変わりません。少なくとも術後投与に比べて成績が悪くなることはないということは認められています。
      • 腫瘍縮小が単純に乳房温存術につながらない場合があります。
         腫瘍(しこり)が同心円状に縮小すれば問題はありませんが、しばしばモザイク状や島状の腫瘍の遺残を呈して、折角、術前化学療法の効果があっても、手術を縮小できない(乳房温存手術が出来ない)こともあります。

      *術前化学療法に関心のある方は遠慮なく担当医にお尋ねください。